地域におけるデジタルデバイド解消と共創:多様な住民を巻き込む実践手法
持続可能なまちづくりとデジタルデバイド
持続可能なまちづくりを進める上で、地域住民や関係者が共に課題を認識し、解決策を共創していくプロセスは不可欠です。近年、デジタル技術の進化は、情報共有、コミュニケーション、サービス提供など、様々な面で地域に新たな可能性をもたらしています。しかし同時に、誰もが等しくデジタルの恩恵を受けられているわけではなく、「デジタルデバイド(情報格差)」という課題も顕在化しています。
デジタルデバイドは、単にインターネットにつながる機器や回線があるかどうかの問題に留まりません。これらを「使いこなすスキル」や、自分に必要な情報に「アクセスできるリテラシー」、そしてデジタルサービスが「利用しやすい設計になっているか(アクセシビリティ)」といった多層的な課題を含んでいます。この情報格差は、地域内でのコミュニケーションの分断を生み、特定の住民がまちづくりの議論や共創の機会から取り残されるリスクを高めます。
本稿では、地域におけるデジタルデバイドの実態を理解し、多様な住民を包摂しながら、情報格差を解消しつつ地域共創を促進するための実践的な手法について考察します。
地域におけるデジタルデバイドの実態理解と共創の必要性
地域におけるデジタルデバイドは、高齢者や障害のある方、低所得者層、地理的な情報インフラの格差、特定の外国籍住民など、様々な要因によって生じます。これらの層は、単に情報にアクセスしにくいだけでなく、自身の意見を表明したり、地域活動に参加したりする上でも障壁に直面しやすい傾向があります。
持続可能なまちづくりには、地域の多様な声が反映されることが不可欠です。一部の層だけがデジタルツールを活用して情報収集や意見交換を行い、他の層がそれに追随できない状況は、真の意味での共創とは言えません。デジタルデバイドの解消は、技術的な課題であると同時に、社会的な包摂と公平性の問題であり、共創的なアプローチなくしては根本的な解決は難しいと言えます。
行政や特定の専門家が一方的に解決策を提供するのではなく、情報格差に直面している住民自身を含め、多様な立場の関係者が共に課題を分析し、互いの知見や経験を活かして解決策を模索していく共創プロセスが求められます。
多様な住民を巻き込むデジタルデバイド解消の実践手法
地域におけるデジタルデバイドを解消し、真に包摂的な共創プロセスを実現するためには、以下のような多角的なアプローチが考えられます。
1. 物理的なアクセスとサポート拠点の確保
- 公共スペースの活用: 公民館、図書館、地域交流センターなどに無料Wi-Fi環境を整備し、誰でも気軽に利用できるオープンスペースを設けることは基本的な一歩です。
- 機器の貸し出し・提供: 一時的な利用や練習のために、スマートフォンやタブレット、ノートPCなどの機器貸し出しサービスを提供します。NPOなどが寄付された機器を整備し、活用する事例もあります。
- 身近な拠点との連携: 地域の商店、郵便局、医療機関など、住民にとって身近な場所をデジタル活用のサポート拠点として連携を図ることで、心理的なハードルを下げることができます。
2. スキル・リテラシー向上のためのきめ細やかな支援
- 住民参加型のデジタル講座: 一方的に知識を伝えるのではなく、参加者の関心やスキルレベルに合わせた、少人数制で対話型の講座を企画します。スマートフォンでの写真撮影、地域の情報検索、オンライン会議ツールの使い方など、具体的な用途に即した内容が効果的です。
- 地域内の相互支援ネットワーク: デジタルスキルのある住民(学生、若者、企業退職者など)が、そうでない住民をサポートする仕組みを作ります。NPOなどがコーディネート役となり、サポーター養成講座やマッチングを行うことも有効です。
- オンラインツールの「使いこなし」サポート: 特定の地域情報プラットフォームや行政サービスアプリなど、地域で利用が進むデジタルツールの具体的な使い方に関する相談窓口やヘルプデスクを設置します。
3. 情報アクセスの改善と多様な提供方法
- アナログ媒体との併用: 地域の重要な情報は、デジタル媒体(ウェブサイト、SNS)だけでなく、広報誌、回覧板、地域の掲示板など、引き続きアナログ媒体でも提供します。住民が最もアクセスしやすい方法を確認し、バランスを取ることが重要です。
- ウェブサイト・アプリのアクセシビリティ向上: 地域情報サイトや行政サービスのオンライン手続き画面は、高齢者や障害のある方も使いやすいように、文字サイズの変更機能、音声読み上げ対応、シンプルなデザインなどを考慮します。
- 対面での情報提供機会: デジタルでの情報収集が難しい住民向けに、定期的な説明会や個別相談会を開催します。地域の回覧板や掲示板でこうした機会を告知することも有効です。
4. 共創プロセスへの包摂的な巻き込み
- ハイブリッド型ワークショップ: まちづくりの意見交換会やワークショップにおいて、オンライン参加とオフライン参加の選択肢を設け、それぞれの参加者が円滑に交流できるようなファシリテーションを行います。
- 「デジタルサポーター」の共創: 地域のデジタル活用を支援するサポーターを、単に行政やNPOが育成するのではなく、住民自身が「自分たちの地域の情報サポーター」として育成・運営に関わるような共創プロセスを設計します。
- 多様な意見表明の場の提供: デジタルツールでのアンケートだけでなく、紙媒体での意見募集、個別訪問、地域集会でのヒアリングなど、多様な方法で住民の意見を収集します。
- 小さな「できた」を積み重ねる: デジタル活用に関するイベントや講座で、参加者が実際にデジタルツールを使って「地域の情報を調べられた」「家族とオンラインで話せた」といった小さな成功体験を積めるような工夫を凝らします。これが次のステップへの意欲につながります。
課題と今後の展望
これらの実践は、一朝一夕に達成できるものではなく、継続的な取り組みと予算、そして何よりも地域住民間の信頼関係が不可欠です。ボランティアとして関わる住民や支援者のモチベーション維持、多様なニーズへの個別対応、効果測定の難しさなど、様々な課題も存在します。
しかし、デジタルデバイド解消に向けた共創プロセスは、単に技術的な問題解決に留まらず、地域内のコミュニケーションを活性化し、世代や背景を超えた住民同士のつながりを強化することにつながります。これは、まさに持続可能で真にインクルーシブなまちづくりの基盤となるものです。
地域におけるデジタルデバイド解消は、技術の導入だけでなく、いかに多様な住民を置き去りにせず、共に学び、共に考え、共に未来を創っていくかという共創の問いでもあります。このプラットフォームでの皆様の知見や実践事例の共有が、各地での取り組みをさらに前進させるきっかけとなることを期待しております。