地域生物多様性保全を推進する共創:NPO・住民・行政・企業連携の実践ガイド
はじめに:なぜ今、地域における生物多様性保全に共創が必要か
地球規模での生物多様性の損失が深刻化する中、私たちの生活を支える自然資本の重要性への認識が高まっています。特に、地域における生物多様性は、その土地固有の生態系や文化と深く結びついており、地域の持続可能性に不可欠な基盤です。
生物多様性保全は、特定の主体だけでは完結しない複合的な課題です。行政による法規制や計画、研究者による調査・分析、NPOや地域住民による現場での活動、企業のCSR/CSV活動など、多様な主体がそれぞれの専門性や資源を持ち寄り、連携・共創することで、より効果的かつ持続可能な保全活動が実現します。
この記事では、地域における生物多様性保全活動を推進するために、NPO、地域住民、行政、企業といった多様な主体がどのように連携し、共創を進めることができるのか、その実践的なアプローチについて解説します。
地域生物多様性保全における各主体の役割と連携のポイント
地域での生物多様性保全プロジェクトを成功させるためには、各主体が自身の役割を理解し、互いに協力し合うことが重要です。
NPO・市民団体
- 役割: 現場での保全活動(外来種駆除、植栽、清掃など)、住民啓発、モニタリング、行政や企業との橋渡し役、プロジェクト企画・運営の中核。
- 連携のポイント: 地域の自然環境に関する専門知識や現場での経験を活かし、具体的な活動計画を行政や研究者と共有する。住民参加型イベントの企画・実施を通じて、地域住民の関心と協力を引き出す。
地域住民
- 役割: 地域の自然環境への深い理解や愛着に基づく活動への参加、伝統的な知識の継承、日常的な見守りや報告、保全活動への協力。
- 連携のポイント: NPOや行政が企画する活動への積極的な参加。地域の自然の変化を行政や研究者に伝える。地域の「宝物」としての自然の価値を再認識し、主体的に保全に関わる意識を持つ。
行政(自治体)
- 役割: 保全に関する法制度の運用、計画策定、予算措置、情報の公開(生物多様性地域戦略、レッドリストなど)、関係者間の調整、啓発活動支援。
- 連携のポイント: NPOや住民からの現場の声に耳を傾け、政策や計画に反映させる。企業や研究機関との連携を促進する仕組みを構築する。多様な主体の活動を支援する助成制度や情報提供を行う。
企業
- 役割: 事業活動における環境負荷の低減、敷地内の緑地保全、CSR/CSV活動としての資金的・人的支援(従業員ボランティア)、専門技術(例: モニタリング技術)の提供、サプライチェーンにおける生物多様性配慮。
- 連携のポイント: 自社の事業と関連付けた保全活動をNPOや行政と協働で実施する。従業員のスキルや専門知識を活かせる形でプロジェクトに参画する。資金提供だけでなく、長期的なパートナーシップを構築する視点を持つ。
研究者・大学
- 役割: 地域の生態系に関する科学的な調査・分析、保全効果のモニタリング・評価、専門的な助言、人材育成。
- 連携のポイント: 研究成果を地域社会に分かりやすくフィードバックする。地域のニーズに基づいた研究テーマを設定する。NPOや行政と協働で調査やモニタリングを行い、科学的根拠に基づいた保全計画策定に貢献する。
実践的な共創アプローチと成功のポイント
これらの主体が連携し、効果的な保全活動を進めるためには、以下のような実践的なアプローチが考えられます。
1. 共通認識の醸成と目標設定
- 地域における生物多様性の現状や課題、保全の重要性について、多様な主体が共通の認識を持つことが出発点です。ワークショップや勉強会などを通じて、互いの立場や関心を理解し合います。
- 具体的な保全目標を、参加型のプロセスで設定します。例えば、「〇〇川の特定の魚種の生息数を5年で△△%回復させる」「里山の□□ヘクタールの下草刈りを毎年実施する」など、定量的かつ達成可能な目標を設定します。
2. 効果的な情報共有とコミュニケーション
- 各主体が持つ情報(調査データ、活動記録、地域の声、行政計画など)を円滑に共有する仕組みが必要です。オンラインプラットフォームや定期的な情報交換会などが有効です。
- 専門用語を避け、誰にでも理解しやすい言葉で情報発信する工夫が求められます。研究者や行政が持つ専門知識を、NPOや住民向けに翻訳する役割も重要です。
3. 多様な主体が関わるプロジェクト企画・実施
- 特定の課題解決や目標達成に向けたプロジェクトを、最初から多様な主体が企画段階から関わる形で立ち上げます。
- 例えば、特定希少種の保全プロジェクトであれば、行政が規制や予算を、NPOが現場での捕獲・繁殖・放流や啓発を、研究者が遺伝子解析や生息環境評価を、企業が資金提供や従業員ボランティアを、住民が目撃情報の提供や環境整備協力を担当するなど、それぞれの強みを活かせる役割分担を行います。
4. 資金調達と資源確保の多様化
- 行政の補助金だけでなく、企業のCSR予算、クラウドファンディング、ふるさと納税の活用、環境関連の財団助成金、市民ファンドなど、多様な資金源を組み合わせる視点が必要です。
- NPOや地域住民は、プロジェクトの社会的価値や地域への貢献度を分かりやすく伝え、共感を呼ぶ資金調達戦略を立案・実行します。
5. 成果の可視化とフィードバック
- 保全活動によってどのような成果が得られたのかを、科学的なデータに基づきながらも、地域住民にも分かりやすい形で報告・共有します。
- 定期的に活動を振り返り、成果や課題を関係者間で共有し、今後の活動計画にフィードバックする仕組み(モニタリング・評価体制)を構築します。これにより、活動の改善と継続的な共創関係の維持につながります。
地域事例から学ぶ共創のヒント
いくつかの地域では、すでに多様な主体が連携して生物多様性保全に成功しています。例えば:
- 里山保全: 荒廃した里山をNPOが中心となり、企業の従業員ボランティアや地域住民、研究者と連携して整備。間伐材を活用したバイオマス発電や木工品開発と結びつけ、地域経済の活性化と両立させる試み。
- 河川・湿地再生: 行政が土地改良事業と連携し、NPOや住民がモニタリングや外来種駆除を実施。研究者が生態系評価を行い、企業の資金提供により必要な機材や人材を確保。再生された環境を活かしたエコツーリズムや環境学習プログラムの開発。
- 希少種保全: 特定の希少動物の生息地保全のため、行政が保護区指定や啓発活動を、NPOが巡視や密猟防止活動を、住民が目撃情報の提供や地域ルールづくりを、研究者が生息数調査や遺伝子解析を、企業が保護看板設置や資金提供を行う。
これらの事例に共通するのは、単に資金や労働力を提供するだけでなく、それぞれの主体が持つ知識、技術、ネットワーク、そして地域への想いを持ち寄り、対等な立場で連携している点です。
まとめ:持続可能な地域のために、生物多様性保全を共創で
地域における生物多様性保全は、環境問題であると同時に、地域の文化、経済、そして住民のウェルビーイングに関わる重要な課題です。この課題に対して、NPO、地域住民、行政、企業、研究者など、多様な主体がそれぞれの役割と強みを活かし、互いに学び合い、支え合いながら共創を進めることが、持続可能な成果を生み出す鍵となります。
本プラットフォームは、このような多様な主体が集まり、情報やノウハウを共有し、新たな連携の可能性を探る場となることを目指しています。ぜひ、皆様の経験やアイデアを共有し、地域における生物多様性保全の共創を共に推進していきましょう。