地域における「場」を活かす:コワーキング・コミュニティスペース等の持続的運営と共創実践ガイド
地域における「場」の重要性と運営の課題
近年、地域におけるまちづくりの担い手が増加する中で、地域住民や様々な主体が交流し、共に活動するための「場」の重要性が再認識されています。コワーキングスペース、コミュニティカフェ、多世代交流拠点、ものづくり工房など、その形態は多様化し、地域活性化や課題解決の起点となりうる可能性を秘めています。
これらの「場」は、単なる物理的な空間ではなく、情報の集まるハブとなり、新しいアイデアやプロジェクトを生み出す触媒として機能します。しかし、その運営には様々な課題が伴います。特に、持続的な運営体制の構築、安定した資金確保、そして多様な利用者を呼び込み、活発なコミュニティを醸成することは容易ではありません。
本記事では、地域における「場」を持続的に運営し、さらにその「場」を活かして多様な主体との「共創」を深めるための実践的な視点やノウハウについて解説します。
地域における「場」が持つ可能性と役割
地域における「場」は、その目的や機能に応じて多様な役割を果たします。
- 交流促進とネットワーク構築: 地域住民、U・Iターン者、ビジネスパーソン、学生など、多様な人々が集まることで、偶発的な出会いや交流が生まれ、人的ネットワークの構築を促します。これは地域課題解決のための協働相手を見つける上で非常に重要です。
- 創業・事業化支援: コワーキングスペースなどは、フリーランスやスタートアップにとって、情報交換やスキル共有の場となります。専門家との連携や、他の利用者からのフィードバックを得ることで、事業の立ち上げや成長をサポートします。
- 地域資源の活用と新たな価値創造: 遊休施設や空き店舗を改修して「場」として活用することで、地域の未利用資源に新たな命を吹き込みます。また、地域の歴史、文化、産業などをテーマにした「場」は、その地域ならではの魅力を発信し、新たな観光や交流の機会を生み出します。
- 社会課題解決のプラットフォーム: 高齢者や子育て世代が集まる場は、互いの支え合いや情報交換を通じて、地域福祉の向上に貢献します。環境問題や防災など、特定の地域課題について学び、共に行動するための拠点となることもあります。
持続的運営に向けた実践的アプローチ
「場」の運営を持続可能なものとするためには、以下の要素を検討することが重要です。
1. 資金計画と収益モデルの確立
運営費(家賃、光熱費、人件費、維持管理費など)をどのように賄うかは、最も重要な課題の一つです。
- 多様な収益源の確保: 利用料(ドロップイン、会員制)、イベント収入、貸会議室収入、飲食物提供、物販、地域企業からの協賛金など、複数の収益源を持つことがリスク分散につながります。
- 補助金・助成金: 初期投資や特定のプロジェクトに対して、国や自治体、財団などが提供する補助金・助成金を活用します。ただし、これらは単年度である場合が多く、継続的な資金源とはなりにくい点に注意が必要です。
- 地域クラウドファンディングや市民出資: 地域住民や関心を持つ人々からの資金調達は、資金を得るだけでなく、「場」への関心や愛着を高める効果もあります。
- 事業連携による収益創出: 地域内の事業者と連携し、共同でサービスや商品開発を行うことでも収益を生み出す可能性があります。
2. 運営体制の構築と人材育成
安定した運営には、適切な運営体制と担い手の確保が不可欠です。
- 運営組織の明確化: NPO法人、一般社団法人、企業、任意団体など、運営を担う主体を明確にします。それぞれの組織形態にはメリット・デメリットがあります。
- 多様な担い手の協働: 常駐スタッフ、パートタイマー、ボランティア、プロボノなど、多様な働き方や関わり方を受け入れることで、運営に必要な人材を確保します。特にボランティアやプロボノは、専門知識やスキルを提供してくれるだけでなく、コミュニティの一員として「場」を共に育てていく意識を高めます。
- コミュニティマネージャーの役割: 「場」の活性化には、利用者間の交流を促し、イベントを企画・運営するコミュニティマネージャーの存在が鍵となります。コミュニケーション能力、企画力、ファシリテーション能力などを持つ人材の育成・確保が必要です。
3. 利用者コミュニティの形成と活性化
「場」を魅力的なものにし、継続的に利用してもらうためには、利用者同士のつながりを生み出し、コミュニティを活性化させることが重要です。
- イベント・ワークショップの企画: 利用者の関心やニーズに応じたテーマ(スキルアップ、趣味、交流など)で、定期的にイベントやワークショップを開催します。
- コミュニケーションツールの活用: オンライングループ(Slack, Facebookグループなど)を活用し、日常的な情報交換や利用者同士の連携をサポートします。
- フィードバックループの構築: 利用者からの意見や要望を収集し、運営改善に活かす仕組みを作ります。アンケートや定期的な対話会などが有効です。
- 「場」のルールと文化づくり: 全ての人が気持ちよく利用できるよう、共通のルールやマナーを定めます。また、「場」ならではの温かい雰囲気や協力し合う文化を醸成します。
「場」を活かした多様な主体との共創
「場」は、地域内の様々な主体(NPO、企業、行政、大学、住民など)との連携を促進し、「共創」を生み出す可能性を秘めています。
- 利用者と地域住民・企業との連携: 「場」の利用者が持つスキルやアイデアを、地域の課題解決やビジネスチャンスにつなげます。例えば、ITスキルを持つ利用者が地域のNPOのウェブサイト作成を支援したり、デザイナーが地域産品の商品パッケージをデザインしたりするプロジェクトを企画します。
- 行政との連携: 「場」を行政サービスの情報提供拠点としたり、住民参加型のワークショップを共同で開催したりします。行政にとっては住民ニーズを把握しやすく、運営者にとっては活動の認知度向上や連携強化につながります。
- NPO・地域団体との連携: 「場」を活動拠点として提供したり、共同でイベントやプロジェクトを実施したりします。互いのネットワークやノウハウを共有することで、より大きな社会課題の解決に貢献できます。
- 大学・研究機関との連携: 学生のフィールドワークの受け入れや、共同での調査・研究、専門知識を活用したワークショップなどを実施します。新しい知見や若い世代の視点を取り入れることができます。
これらの共創を通じて、「場」は単なる貸空間から、地域全体のイノベーションを牽引するプラットフォームへと進化していきます。
まとめ
地域におけるコワーキングやコミュニティスペースなどの「場」は、まちづくりの重要なハブとなり得ます。その持続的な運営には、多角的な資金計画、多様な人材による運営体制、そして利用者コミュニティの活性化が不可欠です。
さらに、「場」を地域内の多様な主体との「共創」の拠点として積極的に活用することで、単体の「場」の活動を超え、地域全体の課題解決や新しい価値創造へとつながる可能性が広がります。自身の関わる地域で「場」の運営に携わる、あるいは「場」の活用を検討されている方は、ぜひこれらの視点を参考に、多様な主体との連携を模索してみてください。「場」が持つポテンシャルを最大限に引き出し、共に豊かな地域を創造していくことが期待されます。