遊休資産(空き家・空き店舗)を活かす地域共創:課題と実践的アプローチ
地域に眠る「遊休資産」の可能性とまちづくりの課題
近年、多くの地域で空き家や空き店舗といった遊休資産の増加が深刻な課題となっています。これらの遊休資産は、単に景観を損ねるだけでなく、治安の悪化、コミュニティ機能の低下、地域の活力喪失に繋がる可能性があります。しかし、視点を変えれば、これらは地域に眠る「潜在的な資産」とも言えます。これらの遊休資産を地域住民、NPO、事業者、自治体など多様な主体が連携して活用することは、持続可能なまちづくりに向けた重要なアプローチの一つです。
遊休資産を地域活性化に繋げるためには、単なる建物の改修に留まらず、その活用目的を地域全体のビジョンの中に位置づけ、様々な関係者との共創を進めることが不可欠です。本稿では、遊休資産を活用した地域共創の意義、直面する主な課題、そしてそれらを乗り越えるための実践的なアプローチについて考察します。
遊休資産活用の意義と地域にもたらす可能性
遊休資産の活用は、地域に多岐にわたる可能性をもたらします。
- 新たな交流・活動拠点の創出: 地域住民が集まるコミュニティスペース、多様な世代が交流する居場所、NPOや市民活動団体の活動拠点として再生することで、地域内の交流を促進し、孤立を防ぐ役割を果たします。
- 地域産業・ビジネスの活性化: 飲食店、物販店、コワーキングスペース、シェアオフィス、ゲストハウスなど、新たな事業の場として活用することで、地域経済の活性化や雇用創出に貢献します。特に空き店舗の活用は、シャッター通り化した商店街の再生に繋がる可能性があります。
- 移住・定住促進: 移住希望者向けの住宅、サテライトオフィス、多拠点居住の拠点などとして活用することで、関係人口や交流人口の増加、ひいては移住・定住の促進に繋がります。
- 地域の課題解決: 高齢者向けのデイサービス施設、子育て支援施設、防災拠点、地域の歴史や文化を伝える資料館など、地域のニーズに応じた機能を持たせることで、様々な課題解決に貢献します。
- 景観・環境の改善: 適切に管理・活用されない空き家は景観を損ないますが、再生・活用することで地域の魅力向上に繋がります。また、解体・新築に比べて建築廃棄物を削減し、既存ストックを活かす点で環境負荷低減にも貢献します。
これらの可能性を実現するためには、遊休資産をどのように活用するかという「目的」を明確にし、その実現に向けて多様な主体が知恵とリソースを持ち寄り、「共創」していくプロセスが重要となります。
遊休資産活用における主な課題
遊休資産の活用は多くの可能性を秘める一方で、様々な課題に直面します。
- 法規制と制度のハードル: 建築基準法、都市計画法、消防法など、建物の用途変更や改修に関わる法規制は複雑です。特に古い建物の場合、現行法規への適合が困難なケースや、多額の費用が発生する場合があります。また、相続登記が未了であったり、権利関係が複雑であったりする物件も少なくありません。
- 所有者との関係構築: 所有者が遠方に居住していたり、活用に対する関心が薄かったり、あるいは費用負担への懸念から協力的でない場合があります。また、思い入れのある建物を手放すことに抵抗を感じる所有者もいます。所有者の意向を確認し、信頼関係を構築することが最初の、そして重要なステップとなります。
- 資金調達の困難さ: 建物の改修費用、運営費用、維持管理費など、多額の資金が必要となるケースが多いです。NPOや地域団体にとって、十分な資金を確保することは大きな課題です。補助金や助成金だけでは賄いきれない場合も多く、新たな資金調達手法の検討が求められます。
- 専門知識・ノウハウの不足: 遊休資産の活用には、建物の診断、改修設計、法的手続き、事業計画の策定、運営、広報など、多岐にわたる専門知識や経験が必要です。地域住民やNPO内部だけではこれらのノウハウが不足しがちです。
- 地域住民との合意形成: 遊休資産の活用は、周辺住民の生活環境に影響を与える場合があります。例えば、人の出入りが増えることによる騒音やプライバシーの問題、駐車場の確保など、事前に地域住民と十分にコミュニケーションを取り、理解と協力を得ることが不可欠です。
これらの課題は単独で存在するのではなく、相互に関連しています。例えば、法規制のハードルが資金調達を困難にし、それが所有者の活用への意欲を低下させる、といった連鎖が起こり得ます。
課題解決に向けた実践的アプローチ
遊休資産活用の課題を乗り越え、地域共創を成功させるためには、以下のような実践的なアプローチが有効です。
- 官民連携の強化とプラットフォーム構築: 自治体は、空き家バンクの整備、活用に関する相談窓口の設置、改修費補助制度の拡充、条例による特定空き家への対応強化などを通じて、活用を後押しできます。NPOや地域団体は、所有者と利用希望者のマッチング支援、活用モデルの提案、地域住民との合意形成の媒介役を担うことができます。自治体と民間が連携した情報提供やマッチング機能を持つプラットフォームを構築することが、効率的な活用促進に繋がります。
- 多様な専門家との連携: 建築士、司法書士、行政書士、不動産コンサルタント、税理士、社会福祉士、地域づくりの専門家など、多様な分野の専門家の知見を活用することが不可欠です。建物の法的・物理的な診断から、権利関係の整理、事業計画の検討、補助金申請まで、専門家ネットワークを通じて必要なサポートを得られる体制を構築します。まちづくり共創プラットフォームのような場で、多様な専門家と繋がることも有効です。
- 資金調達手法の多様化: 従来の補助金や融資に加え、クラウドファンディングによる共感や資金の獲得、企業のCSR活動や社会貢献投資との連携、地域通貨の活用、ソーシャルインパクトボンドの導入検討など、多様な資金調達手法を組み合わせることで、資金の壁を低減します。
- スモールスタートと段階的な展開: 最初から大規模な改修や事業を目指すのではなく、DIYによる簡易な改修でイベントスペースとして活用するなど、小さな一歩から始めることも有効です。地域住民の反応を見ながら、段階的に機能や規模を拡大していくことで、リスクを抑えつつ、地域との信頼関係を築いていくことができます。
- 情報共有と横展開: 他地域での成功・失敗事例から学び、その知見を共有することが重要です。オンラインプラットフォームなどを活用し、物件情報、活用アイデア、資金調達方法、専門家情報などを共有することで、新たな活用の動きを促し、横展開を加速させることができます。
まとめ:共創による遊休資産活用の未来
遊休資産の活用は、個別の建物の問題解決に留まらず、地域全体の資源を再配置し、新たな価値を創造するプロセスです。このプロセスを成功させる鍵は、所有者、地域住民、NPO、事業者、自治体、専門家といった多様な主体が、それぞれの立場や強みを活かし、共通の目標に向かって「共創」することにあります。
課題は複雑ですが、実践的なアプローチと多様な主体の連携によって、乗り越えることは可能です。まちづくり共創プラットフォームが、遊休資産に関する課題や知見を共有し、新たな共創プロジェクトを生み出す場となることを期待しています。地域に眠る遊休資産を、共に語り合い、共に考え、共に活かしていくこと。それが、持続可能なまちづくりの実現に繋がっていくはずです。