住民の幸福度を高めるまちづくり:ウェルビーイング指標の活用と共創の実践
ウェルビーイング視点でのまちづくりとは
従来のまちづくりは、道路や建物といった物理的なインフラ整備に重点が置かれることが多くありました。しかし、これだけでは住民一人ひとりの豊かな暮らしや精神的な充足といった「幸福度」に直接つながるとは限りません。近年、持続可能なまちづくりにおいて、住民のウェルビーイング(Well-being:身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)を向上させる視点が重要視されています。
ウェルビーイングをまちづくりの中心に据えることは、単に住民満足度を高めるだけでなく、地域への愛着の醸成、社会関係資本の強化、主体的な地域活動への参加促進など、多くの好循環を生み出す可能性を秘めています。NPOや地域団体、行政、企業、研究者など、様々な主体が連携し、共に住民の幸福度向上を目指す共創的なアプローチが求められています。
この記事では、ウェルビーイングをまちづくりに取り入れる意義、具体的な指標の活用方法、そして地域における共創の実践について解説します。
まちづくりにおけるウェルビーイング指標の活用
ウェルビーイングを測るための指標は、国や自治体、研究機関などによって様々に開発されています。大きく分けて、個人の主観的な幸福感を問う「主観的ウェルビーイング」と、健康状態、教育水準、所得、社会とのつながりといった客観的なデータに基づく「客観的ウェルビーイング」があります。
ウェルビーイング指標の例
- OECDウェルビーイング指標(Better Life Initiative): 住宅、所得、雇用、教育、健康、環境、社会とのつながり、安全、ワークライフバランス、主観的な幸福度などを多角的に測定します。
- 日本の自治体における取り組み: 地域の特性に応じて、健康寿命、子育て環境の満足度、地域のつながりの強さ、自然環境へのアクセス、文化活動への参加率など、独自の指標を設定している事例が増えています。
指標をまちづくりに活かす方法
ウェルビーイング指標は、まちづくりにおいて以下のような形で活用できます。
- 現状把握: 地域のウェルビーイングがどのような状態にあるかを客観的に把握し、課題や強みを特定します。
- 目標設定: 特定された課題に基づき、具体的なウェルビーイング向上目標を設定します。例えば、「高齢者の社会参加率を〇%向上させる」「子どもの遊び場の数を〇ヶ所増やす」などです。
- 効果測定: 実施したまちづくり活動や政策が、設定した目標に対してどの程度効果があったかを評価します。
- 政策・活動の根拠付け: データの裏付けをもって、住民や関係者に対し活動の重要性や必要性を説明する材料とします。
- 地域独自の指標設定: 地域の住民と共に話し合いながら、地域の実情や住民が大切にしている価値観を反映した独自の指標を設定することも有効です。このプロセス自体が住民の主体的な参加を促し、共創の第一歩となります。
指標の活用にあたっては、単に数値を追うだけでなく、その背景にある住民の声や具体的な生活状況を理解することが重要です。アンケート調査、ワークショップ、ヒアリングなどを通じて、定性的な情報を収集・分析することも不可欠です。
ウェルビーイング向上のための共創的アプローチ
ウェルビーイング向上は、特定の主体だけでは実現できません。行政による制度設計、NPOや地域団体による草の根活動、企業の技術やリソース提供、研究者による知見提供、そして何よりも住民自身の主体的な参加と協働が不可欠です。
共創実践のポイント
- 多様な主体の巻き込み: 住民、NPO、企業、教育機関、医療機関など、多様な立場の人々が同じテーブルにつき、それぞれの視点や強みを持ち寄る場を設定します。
- 共通認識の醸成: 「どのような地域を目指したいか」「住民のどのような状態を理想とするか」といったビジョンを共有し、ウェルビーイングという共通言語で対話を進めます。
- 信頼関係の構築: フラットな関係性の中で、互いの意見や立場を尊重し、長期的な信頼関係を築くことが共創の基盤となります。
- 対話と情報共有: 定期的な会議やワークショップ、オンラインプラットフォームなどを活用し、オープンな対話と情報共有を促進します。活動の進捗や成果、課題などを transparent に共有することが重要です。
- 持続可能な仕組みづくり: プロジェクト単発で終わらせず、活動を継続・発展させるための運営体制や資金調達方法を共に考えます。クラウドファンディングや市民ファンド、企業のCSR連携なども選択肢となります。
具体的な共創事例のヒント
ウェルビーイング向上に資する共創プロジェクトの例としては、以下のようなものが考えられます。
- 地域カフェや交流拠点: 高齢者や子育て世代など、様々な世代が集まり、気軽に交流できる場をNPOや住民グループが運営。孤立防止や多世代交流による活力が生まれます。
- 地域資源を活用した健康・福祉プログラム: 地域住民のスキルや地域の施設を活かし、健康体操教室、趣味のサークル、買い物支援などを実施。住民同士の支え合いや生きがいにつながります。
- 地域の課題を解決する住民参画型プロジェクト: 空き地の活用、地域の清掃活動、防犯・防災マップ作成など、住民が主体となって地域の課題解決に取り組むことで、自分たちの手で地域をより良くしているという実感や誇りにつながります。
- 多様な働き方・学び方を支える仕組み: 地域内の仕事のマッチング、スキルアップ講座、副業・兼業支援などをNPOや企業、行政が連携して提供。経済的な安定だけでなく、社会とのつながりや自己実現の機会を創出します。
- デジタル技術の活用: オンラインコミュニティでの情報交換、地域の課題可視化のためのデータ分析、住民の意見収集のためのアンケートツール活用など、デジタル技術は共創とウェルビーイング向上をサポートする有効な手段です。
結論
ウェルビーイング視点でのまちづくりは、住民一人ひとりの幸福度を地域づくりの中心に据えることで、より豊かで持続可能な地域社会の実現を目指すアプローチです。ウェルビーイング指標を活用して現状を把握し、目標を設定することは、活動の効果を高め、多くの関係者の理解と協力を得る上で強力なツールとなります。
そして、この目標を達成するためには、行政、NPO、企業、研究者、そして住民自身といった多様な主体が、それぞれの強みや立場を超えて連携し、共に課題解決や価値創造に取り組む「共創」が不可欠です。
あなたの地域でも、まずは身近な人々と「私たちの地域の良いところ、もっとこうなったら嬉しいこと」について話し合ってみることから始めてはいかがでしょうか。ウェルビーイングという共通の目標に向かって、新たな共創の輪が広がることを期待しています。